ロリポップ
 スーパーで買い物をして部屋に帰る途中、着信の音楽がなる。

 画面に映るのは【恩田君】。



「もしもし」



【あ、逢沢さんですか?恩田です。お疲れ様です】



 何か営業の延長みたいなやり取りにちょっと笑ってしまう。



「お疲れ様。昨日はありがとう」


 
【い、いいえ。あ・・・の・・・】



「何?」


 
【昨日・・・逢沢さん、僕の部屋に腕時計を忘れていってたみたいで。すみません、僕も気が付いたの、朝だったんです・・・。それで、会社で渡そうと思ってたんですけど、急に取引先に行かなくちゃ行けなくなって。城嶋さんに頼もうにも時計は僕の鞄の中で・・・。急いで会社に戻ったんですけど、逢沢さん、帰りましたって言われて】



 恩田君の声は段々と小さくなっていく。
 


「私、横断歩道の所で恩田君見かけたよ?」



【え!?じゃあ、僕、追いかけてるつもりが追い越してたって事ですか・・・?】



 考えたらおかしくて思わず声を出して笑ってしまう。
 追いかけられてる私が追いかけてる恩田君を見ていたなんて。


「そうだね~あはは。電話くれればよかったのに。昨日のお礼しようと思って、瑛太に聞いたら直帰だって言ってたから、私も帰ったんだ」



【お礼、してくれるんですか?】



 驚いたような声が返ってくる。


「するっていったじゃない。あれだけ迷惑掛けといて、お礼もなしなんて出来ないし」


 私が言った、お礼をするからって言葉。
 本気だと思ってなかったんだ。
 瑛太や友華ならお礼の催促ぐらいしてきそうなレベルの迷惑だったのに。
 


【うわ・・・嬉しいな。それじゃあ、明日、朝、時計を返しますから。一階の自動販売機の所で待ってます。おやすみなさい】



「うん、分かった。ありがとう。おやすみ」


 そう言って電話を切った。
 途端にお腹がぐ~~~~っとなった。
 相変わらず、正直なお腹だ。












 



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