アンジェリヤ
アンジェリヤ
 
 彼と、初めてであったのはいつだっただろう。
隣町からきたという彼は、一度この町で迷子になっていた。それを、綾が案内して、それから関係が始まったといえる。
 そのときも、彼はスチルカメラを構えていていた。スチルカメラというのは、カメラの中でも静止画を写すカメラをさす言葉だ。
 この町へ来たのはこの近くに、毎年恒例のチューリップ祭りがあるから、なんて理由だったと思う。そこにはたくさんのチューリップが植えられており、ハミルトンだとか、ハリウッドスターだとか、いろいろな種類があるそうだ。ちなみに綾も昔、何度かいったことがある。
 いろいろな名前の看板が飾ってあったが、いまいち名前が難しくて、名前と花の一致は今思い出してもしない。一番のお気に入りはアンジェリケといっただろうか。名前のとおりの可憐なピンクのチューリップである。
 彼は花を撮るのが趣味らしく、ちょうど持っていた写真も数枚見せてくれた。
 その後、たわいのない会話をして、気が合うことを知り、仲良くなった。それなりに重い相談ごとも、一生懸命に悩んでくれた。家族が離婚しそうなことだとか、そんなコトを。
 当時は、母に行くか父に行くかで、家庭は荒れていたのだ。それを、支えてくれたのは順だった。結局は、母方についていくことにした。理由は、この場所を離れたくなかったから。父方に行けば、県外になり、ココから遠いわけで彼とはもう会えなくなるような気がしたから。
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