シークレット・ガーデン


就職戦線に破れ、手っ取り早く金が入る道を選んだ。


真彩の母の悩みのタネは、このお気楽者の弟だった。


真彩の父は厳格というほどでもないけれど、息子が夜のアルバイト、というのが許せないらしく、

『貴文をほとんど無視している。
二人が家にいると、家の中が暗くって本当に嫌よ』

と母は嘆く。



光俊の母は、理亜を胸に抱いて離さない。

『歯固め石』の儀式も光俊の母がやった。


「真彩ちゃん、こんなに可愛い孫生んでくれてありがとうね…」


皆の前でさりげなく言った彼女の言葉が真彩はとても嬉しかった。


家にいることを嫌い、今でも週3回ほど、有機野菜や健康食品を取り扱う店でパートをする真彩の母とは違い、光俊の母はずっと専業主婦だ。


保育士の免許を持ち、独身時代は保母をしていたという彼女は、フラダンスや陶芸の趣味を生き甲斐にしていた。


何かと言えば、趣味の話が始まる。


本人は社交的で鷹揚な性格のつもりらしかったが、自慢の一人息子の嫁真彩に対しては少し、厳しくあたることもあった。


結婚前、光俊のことを呼び捨てにする真彩に、

「真彩ちゃん、さんか、君付けしなさい。あなたの旦那様よ。
男は立てないとダメ」

と真顔で言った。







< 32 / 216 >

この作品をシェア

pagetop