シークレット・ガーデン


(あっ…席なくなっちゃった……)


狭く混み合う待合室。
もう、どこにも空席はなかった。

本当はとても疲れていて、座っていたかったのに。


座っていた司は、済まなそうな顔で真彩に手招きをした。


「真彩、座ってな。
理亜、抱いててやるからさ」


立ち上がって、ひょいと真彩から理亜を奪い、肩に担ぐように抱き上げる。

その手付きは赤ん坊の扱いにとても慣れていた。


司が抱いても、理亜は泣き止まなかった。


「よしよし…可哀想だな。
具合悪いんだから、仕方ないよな。
熱さましもらったら、少し楽になるよ。頑張れよ…」


愚図る理亜に話しかけながら、司は理亜の背中を優しく撫でさする。


ふと、真彩は司の愛娘、渚が羨ましくなった。


渚は、病気をするといつもこんな風に父親の司に慰めて貰っているのだろう。



司の大きな身体に抱かれたホワホワした生地の黄色のベビー服を着た理亜は、とても小さく人形のように見えた。



ここにいる人々は、私達3人を親子だと思い込んでいるだろうな…


真彩は思った。


「真彩、呼ばれるまで寝てろよ。家に帰ったら、1人でまた理亜の様子見なきゃならないんだぞ。
今は俺が見るから」




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