beautiful love ★ 俺様boyと天然girl
早手の補習が終わって、数日が経った。

1週間続いた補習からようやく解放された早手は、また最初から部活に来られるようになって、私たちもいつもの毎日に戻っていた。

「水乃、ボールそっち!」

「えっ?」

足元まで転がってきたボールを慌てて拾う。

「早手ー!」

そのまま投げると、早手が片手で受け取った。

「サンキュ」

「ちゃんと取りに来てよー」

「届いたからいいだろ」

「そういう問題じゃないの!」

文句を言いながらドリンクの準備に戻ると、近くにいた優希が笑った。

「相変わらずね、あんたたち」

「何が?」

「なんでもない」

「なにそれー」

補習があった1週間は、早手が途中から部活に来るのが当たり前だった。

だから最初から体育館に早手がいるだけなのに、なんとなく嬉しい。

やっぱり、こっちの方がいつも通りだ。

「水乃ー! タオル!」

「慎、自分で取りに来てー!」

「今無理!」

「もう!」

タオルを持っていこうとした、その時だった。

ガラッ――。

体育館の扉が開く。

何気なくそっちを見て。

「あれ?」

思わず足を止めた。

入口に立っていたのは、木南さんだった。

「木南さん?」

声をかけると、木南さんが私に気づいて笑った。

「修原さん」

「どうしたの?」

「バスケ、見に来たの」

「バスケ?」

「うん。ちょっと見てみたくて」

「そうなんだー!」

木南さんが部活に来るなんて思ってなかったから、少しびっくりした。

でも、見学に来る子がいること自体は珍しくない。

「こっちなら邪魔にならないと思うよ」

「ありがとう」

木南さんをコートの端まで案内する。

「あ、慎にタオル渡すの忘れてた!」

「慎?」

「うん。あそこで騒いでる人」

私が指さすと、ちょうど慎がこっちを見た。

「水乃ー! 遅ぇー!」

「今持っていくー!」

木南さんが小さく笑う。

「仲いいね」

「慎とは中学から一緒だからねー」

タオルを持って慎のところへ向かおうとした時。

「あ、早手」

「…………」

足が止まった。

早手?

振り返ると、木南さんの視線の先には早手がいた。

休憩に入ったのか、こっちへ歩いてくる。

「来たんだ」

「うん。見に来た」

「そ」

それだけ。

本当に、それだけの会話だった。

早手も特に気にした様子もなく、そのまま置いてあったタオルを取る。

「…………」

でも。

私はなんとなく2人を見てしまった。

……早手って呼ぶんだ。

転校してきた時は、神崎くんって呼んでたよね?

いつから変わったんだろう。

「水乃」

「え?」

「慎、ずっと呼んでるけど」

早手に言われて、ハッとする。

「あ!」

コートを見ると、慎がこっちに向かって大きく手を振っていた。

「水乃ー! 俺のタオルー!」

「ご、ごめん! 今行く!」

慌てて走り出す。

別に、名前で呼ぶくらい普通だよね。

同じクラスなんだし。

私だって宗太のことは宗太って呼んでる。

それに早手だって、いつも通りだった。

木南さんと特別仲が良さそうだったわけでもない。

「はい、慎!」

「おっそ!」

「ごめんってばー」

「何してたんだよ」

「木南さん来たから、ちょっと話してたの」

「あー、見に来たんだ」

「うん」

慎にタオルを渡して、また仕事に戻る。

途中でもう1度だけ入口の方を見ると、木南さんは静かに練習を見ていた。

楽しそうに。

ただ、それだけだった。

……早手って、呼ぶんだ。

なぜかそれだけが、ほんの少しだけ頭に残った。
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