beautiful love ★ 俺様boyと天然girl
「……まだ帰ってないのかな」

時計はもう22時を過ぎていた。

カーテンを少し開けて隣を見る。

早手の部屋は、まだ暗い。

自主練が終わった時には『今終わった』って連絡が来ていたから、もうとっくに帰ってると思ってたのに。

帰ったら連絡してって言ったのに、それもない。

「…………」

スマホを手に取って、早手に電話をかける。

でも、出ない。

少し待ってもう1度かけても、やっぱり出なかった。

「……早手」

さすがに不安になってくる。

事故とかじゃないよね。

そんなことを考えながら、何度も隣の暗い部屋を見てしまう。

しばらくして、手の中のスマホが震えた。

早手。

「もしもし!」

『……もしもし』

「早手!? 今どこ!?」

『今戻ってきた』

「え?」

『家』

その言葉に、張っていた力が一気に抜けた。

「もう……心配したんだから」

『悪い。電話気づかなかった』

電話を繋いだままカーテンを開けると、隣の部屋にも明かりがついていた。

少しして、向こうのカーテンも開く。

早手が窓の前に立つ。

ちゃんと帰ってきた。

よかった。

そう思ったのに。

「……え」

早手の頬が赤く腫れている。

口元にも傷がある。

「早手、その顔どうしたの!?」

『声でけぇって』

「だ、だって……!」

窓に近づいて、もう1度顔を見る。

やっぱり見間違いじゃない。

「ど、どうしたの? 喧嘩でもしたのっ?」

『してねぇよ』

「じゃあ何でそんな顔してるの!?」

『何でもねぇって』

「何でもなくないよ!」

何で。

誰にやられたの?

どこで?

痛くないの?

聞きたいことが一気に出てきて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。

「いやだっ、そっち行く……っ!」

『は? おい、待て!』

電話を耳に当てたまま窓を開けて、ベランダへ出る。

そのまま隣へ移ろうとした瞬間。

『おい!! 水乃!!』

「だって早手、怪我してるもん!」

『いいから戻れ! 危ねぇだろ!』

向こうの窓が勢いよく開いて、早手もベランダへ出てきた。

「早手、待ってて。今行くから……!」

「来んな!」

「でも!」

「いいから動くな!」

低い声で言われて、思わず足が止まる。

「落ちたらどうすんだよ」

「だって……早手が……」

「俺は平気だから」

「平気じゃないよ……!」

どうしよう。

血は?

もっと怪我してたら?

病院行った方がいいんじゃないの?

考えれば考えるほど、不安になる。

「救急箱……っ、救急箱取ってくるから、それから――」

「水乃」

「何?」

「落ち着け」

「だって……!」

「分かったから」

早手が小さく息を吐く。

それから、スマホをポケットに入れた。

「そこ動くなよ」

「え?」

次の瞬間。

早手が慣れた動きでこっちへ移ってくる。

「早手!?」

「お前が来ようとするからだろ」

私の部屋側に降りると、すぐに私の腕を掴んで窓から離された。

「ほら、中入れ」

「でも、顔……」

「分かったって」

「痛くない?」

「平気」

「ほんとに?」

「ほんと」

早手に背中を押されるようにして、部屋の中へ戻る。

「とりあえず落ち着け」

「……だって、心配したんだもん」

「分かってる」

「電話も出ないし、帰ってきたら怪我してるし……」

「うん」

「ほんとに喧嘩じゃない?」

「してねぇって」

「じゃあ何したの?」

「…………」

早手が一瞬だけ黙る。

「ちょっとぶつけた」

「そんなわけないよ」

「あるんだよ」

「ないもん」

「はいはい」

絶対誤魔化してる。

でも、早手はそれ以上何も言わなかった。

「……座って」

「何で」

「手当てするから」

「いらねぇって」

「いる!」

「…………」

「早く」

「……はいはい」

早手が仕方なさそうにベッドの端へ座る。

私は急いで救急箱を取りに行って、その前に座った。

近くで見ると、やっぱり頬が腫れている。

「……痛そう」

「大したことねぇよ」

「大したことある」

消毒液を取り出して、早手の顔に手を伸ばす。

「ちょっと染みるかも」

「ん」

できるだけ優しく傷に触れる。

「痛い?」

「別に」

「ほんと?」

「ん」

「……我慢してない?」

「してねぇよ」

いつもの早手の声。

それを聞いて、ようやく少しだけ安心できた。
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