愛してるよ、何よりも

突然、前から大きな手が伸びてきた。


「何で、美桜が泣くんだよ…?」


そう言うと麗斗は私の目じりあたりに親指を這わせた。


私が…?泣いてる…?


状況を把握できなくて、酷く混乱する。


「えっ…?」


「冗談だよ。謝れなんて」


麗斗の言葉を聞いて、一気に顔が熱くなる。


冗談…?


夢子達の方に視線を移すことが出来ない。


また、からかわれた?


もう嫌だ…。やっぱり、来るべきじゃなかったんだ。


「ごめんなさい……」


深く頭を下げて、私はコートと鞄を持って足早に店内を出た。


店を出ると、雨が来た時よりも強く降っていた。


雨に濡れて、傘がないことに気付く。


あ…。傘、店の中に忘れてきちゃった……。


ザーザー雨は勢いよく降っている。


でも、店内に戻って傘を持ってくる勇気なんてない。


仕方ない、歩くか……。


私は大雨の中、駅までの道のりをトボトボと歩き出した。


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