人生の楽しい終わらせ方

良く言えば常識的な、悪く言えばどこにでもいそうな平凡な容姿だったように思う。
実際、記憶に残っているのは声のトーンと、ぼんやりとした立ち姿くらいだ。


「うん、あの……普通っぽい」
「そう、地味な人」


一応、微妙に濁した表現を、サエキはわざわざ言い直した。
悪意があるのか、単に気心知れているのかはわからなかったが、彼女の表情を見て、前者だろうと感じる。
サエキは眉間にしわを寄せて、ひどく険しい顔をしていた。


「あの人にね、この間、付き合ってほしいって言われたの」
「……へえ」
「でも私、断ったのよ。もうすぐ死ぬし」


「好みじゃないし」や「めんどくさいし」と言うのと同じようなトーンで、サエキは言った。


「そしたら、それからしつこくなっちゃって」
「しつこい?」
「電話とか、メールとか。バイト中に話しかけてきたり、プレゼント持ってきたり」
「それは……大変だね」
「ねえ、どうしよう?」
「どうしようって」


なんでそれを俺に聞くの、と言いそうになって、カナタは口を閉じた。
いくらなんでもそれは酷いと思ったのは、サエキが思いのほか困った顔をしてこっちを見たからだ。
とはいえ、カナタにはどうしようもないことであるのは、事実だ。

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