人生の楽しい終わらせ方

「サエキさん!?」


慌てて駆け寄って、肩を揺する。
体を仰向けにして頬に触れると、サエキはすぐに目を開いた。
一瞬視線がぶれてから、目が合う。
カナタは、はあと溜め息を吐いた。


「サエキさん、大丈夫?」
「あ、ごめん、ちょっと」
「え?」
「……気が抜けた……」


彼女の言っていることはわからなかったが、なにか、ただ事ではないのを感じた。
サエキが体を起こすのを手伝って、背中を支える。
サエキが振り向いて、カナタの腕を掴む。
ちらりと合った目尻が光って見えたのが、気になった。
サエキはそのまま、カナタの首に腕を回した。


「サエキさん……?」
「ごめん、すこしだけ、いい」
「いいけど、……その」


なにがあったのか、今聞いてもいいのだろうか。
もう少し時間が必要だろうか。
そう思ったが、口篭もったカナタの耳元で、サエキは言った。


「ちょっとこわかった、だけ」
「……ナンパ?」
「ううん」
「知ってる人?」


サエキは、すんと鼻を鳴らした。
知っている人なんだな、とカナタは考える。
以前言っていた、あのバイト先の先輩と考えるのが順当だろう。
なにかトラブルがあったらしい。
本格的にストーカー化したか、強引に迫られたか、暴力を振るわれたか。
もしかしたらもっと些細なことかもしれないし、もっと酷いことをされたのかもしれない。

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