人生の楽しい終わらせ方
22
屋上からホテルの中に戻って、階段を降りる。
暗い中なのに、サエキが強引に引っ張ってさっさと進んでしまうので、カナタは足元に注意する暇もなかった。
いつもの部屋の前に戻って、ポケットを探って、鍵を取り出す。
その間もずっとカナタの腕を掴んだままなので、鍵が鍵穴にきちんと差し込まれるまでに、ずいぶんがちゃがちゃと余計な音を立ててしまっていた。
普段なら注意深く周囲を確認するところだが、構わずそのまま入って、扉を乱暴に閉めて鍵をかける。
ずかずかと室内を進むサエキに、もう一度声をかけようとしたところで、カナタの腕がぐいと強く引かれた。
腰に柔らかさとバネが当たる感覚。
舌を噛みそうになった。
ぼふ、と弾むのと同時に、ぎいぎいと耳障りな音が立つ。
ベッドに引き倒されたのだと気づいた時には、もうサエキが目の前にいた。
今度こそカナタは、声を出す。
「ちょっ、と」
ベッドの上で半身を起こすが、サエキがずいと体を寄せてきたので、それ以上は動けない。
バネの切れたベッドでは腕を突っ張ることもしづらくて、体を半分起こしているのがやっとだった。
退けることも、体勢を直すこともできない。
カナタの前に座ったサエキは、さっき屋上で寒いと言って留めたシャツのボタンを、上から順番に外しはじめた。
ボタンが外れると、上に羽織ったパーカーを脱いで、シャツの肩も降ろす。
あまり晒されることのなかった二の腕があらわになってようやく、カナタは思い出したように名前を呼んだ。
「サエ、キさん!? なにしてんの、」
サエキは伏せた目をちらりと上げたが、カナタの顔を見ることはなかった。
瞼を閉じるように下ろして、肩を大きく上下させる。
それから体を離して背を向けたので、カナタはほう、と息を吐いた。
それは、安堵の溜め息だった。
カナタの中でも、そこは越えてはいけない一線、という意識はあったのだ。
だがサエキは、何も言わずにTシャツの裾に手をかけた。