人生の楽しい終わらせ方
「クリオネのあれって、消化器とか生殖器とかだよ?」
「それさぁ、自分は食べることとヤることしか考えてませんって言ってんの?」
「ちげーよ」
サエキがけらけらと笑う声が、二人しかいない空間に響いた。
いくら掃除しても換気しても、ここには埃っぽい空気が停滞している。
さっきからずっと隣の部屋が音を立てているから、きっと外は風が吹いているのだろう。
もし明るかったら、風の流れが見えただろうか。
「サエキさん、そんなに不安なの」
「え?」
「“生きてるのが外から見えるなんて、羨ましい”」
「あぁ……だって、人は外からわかんないから」
「そうかな」
「あたしが生きてる証拠なんてさ、一個もないんだよ。カナタにもね」
「証拠ね……それって、死ねばわかんの?」
もしかしてだから死にたいのかと、一瞬思って、すぐに考えるのをやめた。
そんなことまで詮索する理由はない。
「だって、死んだら、それまで生きてたってことでしょ?」
「死んだ本人にだけはわかんないよ」
「うん、だからさ、あたしが死ぬとこ、カナタが見届けてよ」
「……俺が?」
「そ。カナタが、あたしが生きてたってこと証明して?」
「……俺、あんたのこと、心中でもしたいのかと思ってたことあったんだけど」
「え? 違うよ。だって、カナタ――」
そう言いかけた声が不自然に途切れたので、カナタは、サエキの方を見た。
サエキは振り返らないまま、わずかに海から視線を上げた。
薄くなった雲の間から、うっすらと月明かりが漏れていたのだ。
カナタがサエキの視線に倣っていると、またゆらゆらと口を開く。