人生の楽しい終わらせ方
カナタは、線路に目を向ける。
白いレースのついた、茶色い三角形の底のサンダルが、ちょうど真ん中に転がっていた。
バーの上がった踏み切りの中に戻って、それを拾い上げる。
「列車が通ったおかげで外れたみたいだよ。よかったね、壊れてなくて」
「すご、奇跡……あ、ソールちょっと削れてる」
「そのくらいいいでしょ」
お気に入りだったのに、とぼやきながら立ち上がる彼女に、手を貸す。
砂を払ってサンダルを履き直すのを見てから、カナタは口を開いた。
「どれだけ死にたくても、線路はやめたほうがいいよ。後始末が大変だし、案外死ねないし、死ねなかったら後がきついから」
「え、あ、うん」
「それに、あなたの求めてる“綺麗な死に方”じゃないでしょ、……サエキさん」
「え?」
青いメッシュの入ったダークブラウンの髪なんて、間違えようもなく、今日の待ち合わせのためにあらかじめ聞いていた『サエキさん』の特徴だ。
よくわかっていないのか彼女は、目をぱかりと開いて、カナタを見た。
「わかんない? カナタです、はじめまして」
「え、え、まじで?」
「まじですよ」
目線の高さは、スニーカーを履いたカナタと、厚底のサンダルを履いた彼女と、それほど変わらない。
海のほうから吹いてくる風が、長い前髪をさらった。
驚く彼女に、カナタは小さく口許だけで笑う。
彼女――サエキと、はじめましてと挨拶を交わすのは、これで二度目だった。