先天性マイノリティ
施錠された独房のような場所で数日を過ごし、少し落ち着いた今は真っ白な部屋に遷された。
「人間失格」の葉蔵のように脳病院、つまりは精神病患者を喚び入れる専門医院へと運ばれて来た。
霊柩車だと思ったものは救急車であり、都市伝説にあるキチガゐイコール黄色でもなんでもない、ただの箱型の白い乗り物だったようだ。
メイとメイの友人の男に傷を負わせ運ばれた後、俺は鎮静剤代わりの薬を飲ませられ一日半以上も眠り通しだったという。
…こうなってはもう、人間失格。
いや、人間だったのだと名乗ることさえ、なんとおこがましい。
出来ることならば今直ぐに蟻にでも芋虫にでも姿を変えてひと思いに潰されてしまいたい。
手脚も眼球も唇も声帯も、脳内までもがコウがいない世界について一斉に辛い辛いと騒ぎ立てるばかりで、俺は本当に、クズだ。
どんなに懺悔をしても取り返しがつかない。
メイに傷を負わせるなんて。
「メイ…迷惑ばっかりかけて、ごめんな、ごめん」
窓も時計もない部屋。
自傷や自殺防止のために無駄なものは一切なにもない空間。
担当のワタナベ先生はとても優しいけれど、内心は心底呆れられていることだろう。
俺は狂人の烙印を押されているに違いない。
…何処からか声がする。
現実なのか幻なのか、境界線がわからない。
静かな、ひとりぶんの、くり貫かれた世界。
寒くも暑くもない簡易なベッドの上で膝を折り曲げて云いようのない苦痛へと顔を埋める。
底無しの深い闇。
──お願いだ、死神でも悪魔でもいい、俺をコウのいる場所へ連れて逝って欲しい。
感熱紙の表面のようにのっぺりとした感情にはなにひとつ印字されない。
握り締めたシーツを銜えて何度もぎりぎりと噛む。
惨めに溢れる塩辛い想い。
…男の癖に泣いてばかりだ。
後悔を、してばかりだ。
過去に戻って、俺はコウに謝りたい。
「──お前を好きになって、ごめんな」
楽しかった頃が夢のように、哀しいほど鮮やかに蘇った。