先天性マイノリティ
──「コウがいない毎日なんて意味がない。
コウがいない世界なんて生きていても仕方がないんです。
俺はコウを本気で愛していた。
…好きだったんです。
男同士だからとか、そんなことはどうでも良くて、出来るならいつか海外へ行って結婚したかった、理論上無理だと言われても、子供だって欲しかったんです。
本音を言います、本当は俺は日本でも同性婚が認められればいいと思っていた。
興味がないふりをしていただけで、演技してました、自分を守るために。
世間から白い目で見られることはわかっていたし、マイノリティに属す人間は隠すことでしか居場所を得られないと知っていたから。
でも、コウが死んでどうでも良くなった。
世間にも世界にも、俺は興味が失せてしまったんです。
俺を構築している神経細胞だとかDNAだとか、糸だとか配線だとか、すべてコウに直結していたみたいなんですよ。
…だから、もうどうしたらいいのかわからない。
俺はコウの死を認められないし、受け容れられない。
正面から受け止めたら俺は狂ってしまう。
…いや、もう狂っているのかもしれません。ワタナベ先生は優しいからただの風邪薬だって言うけど、明らかに違うでしょう?
俺の両親は自殺してるんですが、死ぬ前に服用してたっていう薬を見たことがある。
それ、同じような色だったんですよ。
たくさん飲んでたって親戚から聞きました。
…はは、俺も、いつか自殺するんすかねえ。
ナツメさんに殴られたのも、自業自得です。
俺がコウを殺したも同然だから。
メイと同じ女に生まれてたら普通の男女として付き合えたのかなとかも考えたけど、別に性転換したいと思ってるわけではないです。
ただ、コウと一緒に今も人生歩めてたかなって……。
──先生にこんな話するのもおかしいんですけどね、すみません。あ、俺謝るのが癖で、あんまり謝るとメイに叱られるんですけど……。」