先天性マイノリティ



「私、あなたのこと全然知りませんけど」



キサラギさんは変わっていなかった。

殆どの女なら口にしないような言葉をあっさりと下す。

彼女は本当に面白い。

突っぱねていたのが嘘のように、俺の正体がイマムラだと告げた途端に表情はとても柔らかくなって。

高校時代を巻き戻したように、こうしてもう一度話が出来るなんて思わなかった。

俺の人生の中で最大級の幸運だと思う。



色々な話をした。

サクラくんも元気そうで一安心だ。

昔から気づいていたサクラくんへの彼女の気持ち。

どうして俺だけが知っていたのか。


…それは…俺がキサラギさんをずっと見ていたから。


そして、サクラくんとウエダさんがどんな仲なのかも予想は出来ている。

彼らの持つ空気感は明らかに「仲の良い男友達」ではなかった。



マイノリティを携える俺だからこそ感知出来たのかもしれない想定はきっと当たっているだろう。

俺は昔から恋愛沙汰の勘だけは良い。

ウエダさんの死に最も傷ついたのは間違いなくサクラくんだろう。

次いで、キサラギさん。

彼女の喪失の痛みも半端ではないはずだ。

高校時代から三人の仲の良さは有名だった。

ウエダさんもキサラギさんも垢抜けていて、憧れの対象だった。


意外だったのは、サクラくんの存在。

ごく普通の、平均の中央にいるような彼に対しての二人の贔屓の仕方が不思議だった。




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