先天性マイノリティ
ウエダさんはカリスマ的存在だった。
彼を一目見た女の子たちは口々に好意的な噂をする。
芸能人並みに特別格好良い訳でも、王子さまのような感じとも違う。
僅か十八歳で雰囲気と容姿、性格のすべてが完成されてしまっている。
そんな印象だった。
だから今回彼が亡くなったことを知っても、驚きは三割減。
彼はどんな恋愛をするのだろうと興味があった。
…最初は、キサラギさんと付き合っているのだろうと思っていた。
噂もあったし、とてもお似合いだったから。
そんな俺が違和感に気づいたのは、ある日。
いつものように二年の廊下でウエダさん、キサラギさん、サクラくんの三人が談笑をしていたときのことだ。
クラスメイトの男の一人がサクラくんに話し掛けた。
移動教室だから早くしろ、とかなんとか、そんな何気ない話題。
サクラくんがウエダさんに背を向ける。
──その瞬間に視た背筋が凍るような、あの眼。
感情を滅多に著さない、穏やかなウエダさんが見せた燃え上がる業火のような雄弁な本音。
一瞬だったから、俺以外は誰も気づいていないだろうと思う。
眼は口ほどにものを言う。
まさに、それだった。
…それから、俺は彼を注視してみた。
キサラギさんに対するウエダさんの愛情は、誰もが通過する普通の恋のレベルに価するといっていい。
でも、サクラくんに対しての彼の感情は恋なんて生易しいものではない。
あれは、愛を超越し、独占欲が剥き出しのもの。
いつか殺してしまうのではと危惧するほどに根深い執着。
…本人は気づいていたのだろうか?
ウエダコウノスケがサクラレイジに関与することにのみ見せるダークサイド。
それは身震いするほどに恐ろしく、内心、何度も見たいと思ってしまうほどに美しかった。