先天性マイノリティ
扉が開き、ワタナベ先生に連れられたゼロジが現れた。
幾分か幼くなった顔つき。
藍色のTシャツがよく似合っている。
「…メイ…」
「泣かないの、大丈夫だから。あんたの言いたいことも思ってることも、私は全部わかってる」
椅子に座ったゼロジは、頭を抱えて泣き出す。
救急車でこの病院に運ばれてから約一ヶ月。
まだ、幻聴や幻覚から抜け切れていない。
一回り小さくなった彼を抱き締める。
「今日、は…コウは?」
「コウはね、仕事。あんたのこと、毎日心配してるよ?だから、ちゃんと薬飲んでよく寝ること。ワタナベ先生の言うこと、よく訊いてね」
…ゼロジは、コウが死んだことを頭の中ではわかっているのだと思う。
ただ、認められないだけ。
頭を撫でながら、あやすように背中を擦り、落ち着かせる。
(昔から、あんたの真っ直ぐさが怖かったのも事実。コウが自殺したときから、こうなるのはわかってた)
──デコボコだった表面が滑らかになり、静かに波打つ浅瀬のように変わっていく。
…ああ、これが私の愛の形だ。
そう悟ったとき、言いようのない愛しさが込み上げて来る。
私は死ぬまで、ゼロジを守る。
薔薇の花のように傷つきやすく壊れやすい彼を、今日、この胸に留めておこう。
言うのは、一度だけ。
最初で最期の、私の告白。