*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
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釣殿とは、遊宴や納涼などに使われる、庭園鑑賞用の建物である。
東西の対屋(たいのや)から南へ延びる中門廊の先につながり、池に臨むように造られる。
右大臣の二条邸では、西の対から庭園へと延びるような形で建てられていた。
その釣殿からは、池の水面に映る月を楽しむことができるのである。
「今日は風がないから、水面に波もないわね。
とてもきれいに月が映っているわ」
釣殿の端に座り込んだ汀は、嬉しそうに池の方へと目を向けた。
「さようでございますわね」
汀の杯に清酒を注ぎながら露草が答えた。
「あぁ、美しい月だわ…………」
凪いだ水面に映り込む細い眉月を見つめながら、汀はうっとりと囁いた。