*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「終わりましたよ、姫さま」



「ありがとう、露草。あぁ、疲れたわぁ」



「まぁ。これからお父君がいらっしゃるのに、早くもお疲れになっていては、わたくし心配ですわ」



「大丈夫よ、うまくやるから安心していてちょうだいな」




汀は鏡台に懸けていた鏡を外し、鏡筥の中に仕舞った。




そうして、几帳の陰に座る。




しばらくすると、兼親の来訪を告げる女童がやってきた。





(………さぁ、気を引き締めなきゃ)




汀は深呼吸をして居住まいを正した。





「六の君よ、達者であるか」




御簾の向こうに、兼親の影がうつる。




「父上、お久しゅうございます」




汀は囁くように応えた。





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