*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
汀は独りごとのように呟いて、薬湯を床に下ろした。





「………ねぇ、露草」




「はい」




「………春宮に入内するということは、貴族にとって、喜ばしいことよね」




「………はい、それはもうーーー」





露草はこくりと頷く。





「ーーー姫さまが春宮さまに入内なされれば、この東二条邸は末長く安泰でございますので………。



殿の姫君の方々ーーー姫さまの姉君がたは、皆様由緒正しき高位の公卿がたにお輿入れなさいました。



中でも、一の君と三の君は帝の女御として入内なされております。


ですが、まだ男宮はお生まれになっておりません………。



ですので、姫さまが春宮のもとに入内なされることで、………おそれ多くも帝がご退位なされた後も、東二条邸の方々の栄華は約束されます。




お父君だけでなく、姫さまの兄君がたも、必ずや立身出世なされることでしょう」






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