*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語







「ねぇ、聞きまして?」



「まぁ、なにを?」



「左近の大将殿のお話よ!」





台盤所の下女たちが、遠慮がちに声を低めながらも、好奇心を抑えきれないような様子で顔を寄せ合っている。





情報通で知られる吊り目の下女が、周囲の数人を集めて新しい噂話を吹聴しようというのだ。





「左近の大将殿がどうかなすって?」



「あのね………ゆうべ、出たんですってよ!!」



「ま、物の怪が!?」



「違うわよ! 火影童子と白縫党が!」



「ええっ!」



「ついこの間、このお邸にも現れたばかりじゃないの!!」



「なんて恐ろしい!!」







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