*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
その時、眉を顰めながら騒ぎ立てる女たちの背後に、静かに近づく影があった。




吊り目の女の肩をぽんぽんと叩き、「ちょっとあなた」と声をかける。




吊り目の女はその声の若いのを聞き、同年代がそれより年若い下女だと判断して、邪険に手を振り払った。




振り向きもせずに、「いま取り込み中なのよ!」と背中で答える。





しかしその瞬間、向かい側にいた一人が大きく目を瞠ったのに気づき、驚いて振り返った。





その視界に、青い瞳が飛び込んできた。





「………ろっ、六の君さま!!」





集まっていた女たちは、蜘蛛の子を散らすように走り去って行き、吊り目の女だけが残された。








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