*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語







「もし。お届け物に上がりました」




控え目な声を聞きつけ、暇つぶしに手習いをしていた汀は、ふと顔を上げた。





(………なにかしら)





日が暮れて薄暗くなってきたので、格子と御簾はすでに下ろしてあった。




側に控えていた露草に視線を送ると、露草はこくりと頷いて、母屋の端まで膝行した。





「………どちらからでございますか」





露草が格子越しに小さく訊ねると、向こうから返事がかえってきた。





「乾(いぬい)の方角に御座します、やんごとなき御方よりーーー」







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