*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
桶の湯を捨てて階の中ほどに腰かけた汀は、駆け出した青丹丸を眺めながら、ふぅ、と溜め息をついた。





先ほど、台盤所で何気なく耳にした会話を思い出す。





(火影童子が、白縫山の盗賊たちと共に、この華月京に現れたーーー)





朔の月の日に、灯を連れていった少年の姿をぼんやりと思い浮かべる。




いかにも動きやすそうな格好で、身軽に築地から飛び降りて外へ逃げてしまった。




その日、この邸は寝殿から東の対、西の対、北の対までくまなく荒らされ、色々なものが盗み取られていた。





ただ、北の対のものは荒らされただけで、物品は何も盗られていなかった。




なくなっていたのは、塗籠にいたはずの灯だけだった。






(………やっぱり、蘇芳丸は、白縫山の盗賊の一味だったのかしら)






汀は空を仰ぐ。




薄い浅葱色の空が、屋根の向こうに広がっていた。







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