*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
ぼんやりとしているうちに、気がつくと、庭先はすっかり夕闇に包まれていた。






「………まぁ、こんな時間。


青丹丸、もどってらっしゃい」






声をかけると、青丹丸は機敏な動作で階を上ってきた。




そして汀の膝の上に居座る。





その素直な愛らしさに、汀は目許を綻ばせた。






青丹丸を抱いて、母屋に戻る。




そこへ露草がやって来て、燈台に火を灯してくれた。






「ありがとう、露草」





「いいえ、滅相もございませんわ。


あ、御簾も下ろしてよろしいですか」





「ええ、お願い。


あ、格子はまだ上げておいてね」





「分かりました、暗くなりましたら、また下げに参りますわね」







露草が去ると、また汀は溜め息をついた。





御簾ごしに、温い風がふわりと入ってくる。





(………なんだか、いやな風だわ。


今は晴れているけど、雨でも降るのかしら………)








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