イケメンの顔面踏んづけた結果。





…鮮明に覚えてる。




ソファでゴロゴロしてたら突然新藤慧が来て、勝手に上り込まれて、仮病呼ばわりされて、ベッドに放り投げられて…




「…慧様は午後から撮影があるということで、つい先程帰られました」



「…そうですか」






…やっぱりあれは夢だったのかな?




熱で浮かされながら、なんとなく覚えているのは




ベッドの脇から、心配そうにあたしを見下ろす目。




額に置かれた手は冷たくて




でもどこか





優しくて。






「…お粥、すっごくおいしいです」




あたしはまた一口、卵粥をスプーンですくって口に運んだ。




「ありがとうございます」



いつも通りただ淡々と、表情を変えずに頭を下げる菊池さん。




暫くそのまま時が流れて




「……あなたはきっと特別なお人なんですね」




不意に菊池さんが口を開いた。





「…は?」



特別な人…?



「…慧様にとって」



え…新藤慧?




「いや…特別な人っていうか…」




奴隷、ですけど…。




あたしは言葉を濁すように、またお粥を口に運ぶ。




そんなあたしをじっと見ていた菊池さんが




「…久しぶりに見ました。


慧様が、誰かの為に動くのは」



「…え」




「あなたなら、慧様を変えてくれそうだ」




そしてちょっと微笑んだ菊池さんは、今までで一番柔らかい表情で。




「…菊池さん」



「よろしくお願いします」




次の瞬間にはまた真顔に戻ってたけど。





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