桜の雨が降るとき
第一章   4月
今この目で見える景色を書くなら絵の具は3色しか必要ない。


空の青、雲の白、そして―――桜の花のピンク色。


季節は春。町の外れの裏山は、江戸時代に沢山植えられたとか言う桜の木で綺麗に彩られている。


私は、その山の中程にある大きくも小さくもない一軒家に住んでいる。


いつもは不便だからあんまり好きではないけれどこの季節だけはどこよりも美しい景色が独り占め出来るから、それが良かったな、と思う。


風が私のスカートを揺らしていった。


もうすっかり慣れたこの服は、私の通う中学校の制服だ。


この制服ともあと一年でお別れかと思うと少し淋しくなるけれど……。


それでも、わたしの胸の中にはもっと大きな希望が膨らんでいた。


私―――荒川涼音は、今日、中学校3年生になる。
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