桜の雨が降るとき

第一話   涼音

じっくり見て、その名前を探してみた。


もう一度。


……もう一度。



「……ない」



そう発した自分の声が、何だかとても掠れている。


私は、信じられない思いで、もう一度それを見つめた。


と、そこへ



「すぅおはよー」



春のこの空気よりも生ぬるい間延びした声が聞こえてきた。


顔を見なくても誰だかわかる。
聴覚に馴染みのある声。
話すときのトーン。


そして、私のことを「すう」という思いっきり略しまくった愛称で呼ぶのは一人しかいないから。



「……おはよう、芽衣」



私は普段よりもいくらか元気のない声で言った。


彼女は朝井芽衣。
これまでクラスが一緒になったことは無いが、部活で仲良くなった子だ。


その大人しそうな見た目とは裏腹に、意外と彼女の中身は明るくて社交的だ。


成績は良くて、よく人から悩みを相談されたりしている。
私も何度かしたことがある。


―――でも、私から言わせると……芽衣は、絶対どこか抜けているのだ。


何というか……バカ?


あと、たまに毒舌発言をぶっぱなしたりする。
そんなことも含めて、彼女は私の大切な友人だ。



「……どうしたの?すぅ、何か元気なくない?」



その芽衣が、私の目を覗き込んで言った。
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