徒花のリーベスリート
 彼は私の幼馴染だ。
 そして私の婚約者……否、今日の手続きが終われば、元婚約者になる。

 彼は伯爵家の次男坊。

 私は侯爵家に産まれた三女。

 もともと親族達の仲が良く、歳はほんの少し離れているが、お互いの家柄は申し分ない。
 其々の家には立派な跡継ぎが既に居るので、面倒事と言えばどちらがどちらに行くか貰うか程度の些末事。
 そもそもこの婚約自体、私達が産まれる遥か以前に親同士が勝手に決めたものである。
 くっつくのも離れるのも本人達次第だと言わんばかりに、良くも悪くも投げっぱなしにされていた。
 双方の気持ちが伴わなければいずれ消滅する予定のものだった。
 事実、これからその通りになるのだ。
 彼の昇進をきっかけに、私達の婚約は破棄されることになった。
 言い出したのは、私。
 私は、彼の事が今でも心底好きだから、婚約の解消を切り出すのにとても勇気が必要だった。
 それこそ告白した時に比べると何倍もの勇気が。

 随分迷って、苦しんで。想い悩む事に限界を感じ、つい我慢できず決壊して、言葉にしてしまった瞬間途轍もない後悔が私を襲った。
 こんなこと本当なら絶対彼に言いたくない、本心ではない、嘘だと謝りたい、冗談だと笑い飛ばしたい。
 そんな私の葛藤を、きっと彼は知らないだろう。
 彼は、暫くしてから小さく頷いた。初めは戸惑っていたようだけれど、最終的に私の提案をすんなりと受け入れてくれた。
 寧ろお互いの親族達を説得する方が大変だったくらいだ。
 ……即時に撤回できていたら、どんなに良かっただろう。
 でも、私はそれをしなかった。
 何故なら……彼が心の底から求めているひとの存在を知っていたから。
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