徒花のリーベスリート
いつの頃からだろう。
彼の視線の先には、可憐で美しい一人の少女が映る様になっていた。
例えば、彼女を冴え冴えと澄み渡る青空に例えるならば。
私は暗く深く澱んで不安をかきたてる灰色の曇天だ。
例えば、彼女を楚々と咲き誇る白百合に例えるならば。
私は、葉陰に鋭い棘を隠した毒々しい紅薔薇だ。
例えば、彼女を人に笑顔を齎す春の日向に例えるならば。
私は人の心の扉を固く閉ざさせる北風だ。
人の好みはさまざまである。
晴れより曇りが好きだという人もいるだろう。
棘があっても薔薇が好きだと言ってくれる者もいるだろう。
中には冷たい北風に価値を見出すものだっているかもしれない。
けれど彼の好みは晴れた青空であり、白百合であり、春風であった。
私には、それが全てだ。