糖度∞%の愛【改訂版】

開けっ放しの自分のロッカーを閉めて、手の中の数枚のメモを綺麗にまとめてたたむ。それを小さいクリップで止めて上に付箋を貼って、今日の日付を書き込んだ。


「捨てないんだ?」


私の行動を見ていた真帆に言われて、「一応証拠として保管」と答える。そのメモの束を持っていたクリアファイルの中にしまいこんだ。
手書きだし、仕事をしている書類の中から似た筆跡を見つけられるかもしれない、なんて薄い望みを持ってみる。
実際、書類はほとんどPCで作成されているから、筆跡が分かる書類なんて数えるほどだ。そんなわずかなものの中から、見つけることは難しいと思うけれど。もしかしたら、見つけられる可能性もあるんだから。一応のため、捨てないでおく。


「で? 当たり前に五月女には相談しないワケだ?」


意地っ張りな私が、簡単に五月女に泣きつくわけがないと分かっての真帆のセリフ。
だって仕方ないじゃない。ここで可愛く“どうしよう”なんて泣きつければいいのかもしれない。でもそれが出来ないんだから。そんなこと言ってる自分を想像するだけで、砂を吐きそうだ。
「悪い?」と開き直る私に、真帆はこれ見よがしな溜息をひとつついた。


「悪かないけど、そこで頼って欲しいのが男心じゃない?」

「でも、そこですぐに頼りたくないのが、年上としての意地じゃない?」

「……一理あるわな」


ふむ、と頷いて真帆がロッカーを閉める。「言うなよ」と念のために口止めしておくけど、真帆は「断言しかねる」と飄々と嘯いた。
< 30 / 73 >

この作品をシェア

pagetop