i f~小さな街の物語~

第5話「本当の顔」



教室に入ると
それぞれのグループが固まって話をしている。


俺は気にせず
一人、自分の席に向かった。


(1ヶ月も経てば、今一緒にいるグループと違うメンバーといるくせに。)


そう強がることで
自分は間違っていないと
言い聞かせる。


また朝から
そんな不器用な自分に腹が立った。



そんな中
俺と同じように自らの席に
一人静かに座る男がいた。


山口裕太。


俺は
彼のことが気になっていた。


彼に感じる自分と似た空気が
そうさせていたのかもしれない。


そう思うと
声をかけてみようかな
という気持ちも芽生えたけど


すぐに
「面倒くさい」の気持ちに
打ち消された。





しばらくして
片桐先生が教室に入ってきた。


「みんなおはよう!
席につこうかっ!」


「は~い!」

すでに先生は
生徒の心を掴んだようで

みんな素直に
先生の言うことを聞いていた。


「今日からは、いよいよ授業が始まります!
みんな緊張してると思うけど、頑張ろう!
昨日言い忘れちゃったけど、先生は国語の担当だよっ。国語の時はよろしくっ!」


完全に体育教師だろ!と
俺は心の中で突っ込んだ。


「みんなにも早く仲良くなってほしいから、さっそく席替えしちゃおうか!!
番号順じゃつまらないしさっ!」




その言葉に
教室内が少しざわつく。


(うわ~、また面倒くさいこと言ってるよ。)


新しいクラスでの
最初の席替え。


これは
昨日の自己紹介に匹敵するほど
俺にとって、苦痛な出来事。

この時ばかりは、片桐先生に
少しムカついた。


「じゃあ初めてだし、くじ引きで決めよう!」


そんな俺の気持ちを
無視するかのように
先生はどんどん段取りを組んで進めていく。


番号順にくじを引き
割り当てられた席に
それぞれが移動する。



俺も嫌々、くじを引く。


新しい席は、、、
一番後ろのど真ん中だった 。


左の席には女の子。

そして反対の席を見ると、、

(げっ、、、マジっすか、、)

俺が今最も気にする人物

山口裕太がいた。



俺は少し驚いて
何秒か彼の顔を見てしまった。


それに気づいた彼。

「なに?」

少し不機嫌そうに
声をかけてきた。

「いや、別に。」


俺も負けじと
不機嫌そうに返事をした。




「は~い!みんな3ヶ月はこの席でいくからな~!
仲良くするんだぞっ!
じゃあ先生は授業があるから、また国語の授業でっ!」


そう言って
先生は足早に教室を後にした。






10分後

1時間目の授業が始まった。

教科は数学。

先生の簡単な自己紹介の後
小学生レベルの計算という内容。

クラスのみんなは
初めての授業ということもあって
すごく真面目に聞いていたけど

正直、適当に聞いていても
今後に支障は出ないであろう授業内容だった。


淡々と授業が進んでいき
20分が経過した頃。


(、、、、、、、、、、誰か寝てるな。)


近くで誰かが寝息を立てている。

俺は、無意識に右隣を見た。



そこには、幸せそうに眠る
山口裕太がいた。


俺は彼の寝顔をジッと見つめ
なぜか笑ってしまった。


(こいつ、、、アホだな。
でも面白い奴。)








授業の終了を知らせるチャイムが鳴り
10分間の休憩時間。

次は体育の授業。

横にはまだ眠りについている男。


みんなは着替えを済ませ
グランドに向かい始めている。


(ちっ、、、誰か起こしてやれよ、、、)


そう思いながらも、いつの間にか
クラスには俺たち2人だけが取り残されていた。


はっきり言って、面倒くさかったけど
さすがにこのままにしておくのも気が引ける。


俺は意を決して彼に声を掛けた。


「おい、起きろよ。次、体育だぞ。」


、、、、、、、


、、、、、、、


何の反応もない。


今度は体を揺すってみる。


「おい!起きろよ!」


ちょっと大袈裟に揺すりすぎてしまったのか
彼は驚いた様子で、目を覚ました。


「、、、ん、、、?
もう授業終わった、、、?」


まだ少し寝ぼけてやがる。


「そうだよ。次、体育で外行かないと。
早く着替えろよ。」


「、、、おう。サンキュ。」


そう言って彼が完全に体を起こし
着替え始めたのを見届けて
俺は急いでグランドに向かった。




(なーんだ、悪い奴じゃなさそうじゃん。)




俺はまだ、山口裕太という男の
本当の顔は知らなかったけど
少なくとも、悪い印象は持たなかったんだ。



これが裕太との最初の出会い。



第5話

「本当の顔」~完~

第6話

「同じ13歳」へ続く

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