Hair cuts

さくら十九歳・春

「就職先は東京にしようと思う」

そう告げると、愛華の顔からは見る見る笑顔が引いた。

「どうして、だって、就職は県内にするって、さくら言ってたじゃん!」

「うん。そのつもりだったんだけど…」

「いや、行かないでさくら、お願い!」

食べかけの菓子パンを机に置いて、愛華があたしに抱きつく。毛先だけくるんと巻いた髪の毛からココナッツのようなシャンプーの香りがした。

「ちょっと、待ってよ。まだ内定貰ったわけでもないし、その前に国家試験にだって合格していないんだから。あくまでも希望だよ、希望」

鼻まですすり上げる愛華に、私は慌てた。
< 113 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop