Hair cuts
そのような不満を遊里にほのめかすと、「そういうつもりはないんだよ」と、遊里は困ったように言った。「あの二人は、たださくらが好きなだけなんだ。困らすつもりも、まして、さくらの夢を邪魔するつもりなんてあるはずがない」と。

勿論そうだと思う。でも、このとき私を支配したのは、「遊里も私の気持をわかってくれない。やっぱり、浩人や愛華の見方なんだ」という嫉妬にも似た感情だった。

日に日に私は三人に対して冷めた感情を抱くようになった。愛華の無邪気さをうっとおしく、浩人の強引さを身勝手に、遊里の優しさを頼りなく思い始めていた。

それなのに、私は誰にもその不満をぶつけようとはしなかった。浩人が「hair cuts」と連呼するのを以前とはまったく違った冷めた気持で眺めながらも、表面上は何一つ変わらない風に接し続けた。

よせては返す波のように、不安定な感情が交互にやってきて私を悩ませた。愛華の言う通り、ずっとこのままこの街で暮らしていけば、私は平穏な日々の中に小さな幸せをいくつも見出す事できるだろう。都会へ出たって成功するのはほんの一握りだ。なのにわざわざ、苦労を買ってでるなんてばかげているのかもしれない。

でも、そんな時ふと頭に浮かぶのは高校時代の友人の輝かしい姿だった。少なくとも彼女たちの視野は私よりずっと広く、目標だってうんと高いところにあった。それに伴う努力をし、その分、生き生きとしていた。それを思い出せば、自分だってこのままで終わりたくないという意地が芽生えてくる。
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