Hair cuts

遊里十九歳・夏

この夏、俺の家族が突然壊れた。それは、本当にあっけないほど単純に。浩人の髪の毛がショッキングピンクに変わったのと同じくらい、ばかげた出来事だった。

「この家の跡継ぎは、遊里、お前だ」

苦渋に満ちた顔で決断を下す親父の横で、母がさめざめと泣いている。俺はなんと答えて言いかわからず、少し伸びた前髪をいじくった。

ことの始まりは一週間前のことだ。兄貴が突然結婚すると言って女の人を連れてきた。

(結婚て、お前、まだ学生だろう!だいたい、その人いくつなんだ)

親父が興奮するのも無理はなかった。兄貴の連れてきた女の人は、どう見ても兄貴よりずいぶん年上だった。兄貴いわく、その人(瞳さんという名前だった)は兄貴のバイト先(全国にチェーン展開するファミリーレストランだ)の店長で、仕事を通じて仲良くなったのだという。

(彼女、ものすごい頑張り屋さんなんだ)

と、兄貴は言った。でも、そんなの親父に通用するはずも無かった。ファミレスの店長をしていれば頑張りやなのか、自分よりずっと若い将来有望な青年の人生を狂わせて大人として恥ずかしくないのか、息子をたぶらかしているんだろう。そんな言葉を初対面の瞳さんに向って永遠吐き続けた。瞳さんは、すみません、すみませんと、ひたすら謝り続けていた。けど、次の兄貴の言葉に家中が凍りついた。

(彼女のお腹には俺の子供がいるんだ)

これには、さすがの親父も閉口した。なんだと?そう聞き返すまでずいぶんと長い間があった。
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