Hair cuts
浩人は仕事に一生懸命だったし、愛華も甲斐甲斐しく手伝ってた。幸せそうだった。俺は、羨ましかったよ。もしかしたら、自分にもこんな未来があったんじゃないかって嫉妬した。

いや、さくらのことを責めてるつもりはないよ。謝るなよ。でも、正直、少しは恨んだこともあるけど…。
 
けど、一見幸せそうに見えたあいつらにも色々あったんだな。ある日、俺は二人の家に寄ったんだ。でも、その日、浩人は家にいなかった。あいつ、美容学校のスクーリングに行ってて、留守だった。覚えてるだろ?通信科生は、普通科の生徒たちの長期休み中、学校へ行って勉強する。

家には愛華だけがいた。夏なのに長袖を着て、ロングスカートを履いて、首にはスカーフまで巻いていた。なんつう格好してんだって呆れた俺に、冷え性だからと愛華は言い訳した。

夏なのに青白い顔をしていた。そのわりには、額には玉の汗が浮いていて、おかしいと思った。その上、足を引きずるように歩いている。

その時、俺の中で何かが弾けた。浩人と愛華に限ってそんなはずないと思いながら、でも、愛華がそんな格好をしている最悪の理由が頭を掠めたんだ。テレビか何かの影響だったのかもしれない。或いは、愛華が発していた危険信号を感じ取ったのかもしれない。

それで俺は、嫌がる愛華の首のスカーフを無理やり引き剥がした。言葉が出なかった。首には絞められたような跡が残っていたから。そっと俺はそこに自分の手を重ねた。同じくらいの大きさだった。

それで観念したのか、それとも緊張の糸が切れたのか、愛華はぽつりぽつりと話し始めた。
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