徒花
ダボくんも悔しそうに拳を作る。



「あぁ。やったのはカイだ」


カイくんが、ユキチくんを刺した。

信じられなくて、でも今目の前には本当に血まみれで倒れてるユキチくんがいて。


私は恐ろしくなって足を後退させる。



「ファミレスを出た後、ユキチが『やっぱり今からカイを説得しに行く』って言い出して。『誰も頼りにならない』、『他のやつに任せようとした俺が馬鹿だった』って」

「………」

「んで、ユキチは組事務所の下にいたカイを捕まえたんだ。ユキチは感情的になってて、そこから口論になって」

「………」

「そしたらカイがいきなりナイフ出して、そんで、ユキチは……」


ダボくんの声は震えていた。



「なぁ、コウ。俺どうしたらいいんだ?」

「……ダボ」

「止められなかった俺が悪いんだよ。俺は楽観視しすぎてた」

「ダボ」

「こんなことになるなんて思わなかったんだ。まさかカイがユキチを刺すなんて思わなくて、俺は――」

「ダボ!」


パニックを起こしそうになっているダボくんを、コウは一喝した。

コウはダボくんの肩を揺らしながら、



「しっかりしろよ! 落ち付け! お前がそんなんでどうすんだよ!」

「でも……」

「あとは俺が何とかするから、お前はユキチを頼む。間違っても死なせるんじゃねぇぞ」


言った後で、コウは後ろにいた私を一瞥し、



「マリアのことも頼む」

「え?」


今更になってどれだけのことになっているのかがわかった気がする。

でも、だからこそ、私は首を横に降った。
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