徒花
「何で私の前で、わざとコウを貶めるようなことを言うの?」

「バレてた?」


だからって、悪いとも思っていないような顔。



「だってコウだけカノジョができるなんて悔しいじゃん」


そんな理由だけで?

と、思ったけれど、どうだってよかった。


ビールを流す私に、カイくんは顔を近づけ、



「そんなにコウが好き?」

「悪い?」

「悪くはないけど」


肩をすくめたカイくんは、短くなった煙草を灰皿になじり、最後の煙を長く吐き出しながら、椅子の背もたれに背を預けた。

そして私を斜めに見て、



「マリアちゃんってさぁ、可愛いし、男なんて選びたい放題って感じっしょ? なのに、もったいないよ、コウなんて」

「………」

「気をつけた方がいいよ。あいつは悪いやつじゃないんだけど、どうしようもないろくでなしだしさぁ。とにかく本能のおもむくままに生きてるような人間で」

「………」

「あいつの場合、悪気がないからタチが悪いっていうか。でも、何だかんだで憎めないとこもあるから、腹立つんだよ」

「ご忠告どうも」


私はそれだけ返した。

コウが携帯片手に戻ってきたのは、そんな時だった。



「俺は邪魔みたいだから、後はふたりで飲んでなよ」


代わりにカイくんが席を立つ。



「ばいばーい」


と、言われたけれど、私はもちろん無視をした。

コウも怪訝な顔をするだけ。


私は残り少なくなったビールを一気に流し込んだ。
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