徒花
「カイに何か言われた?」

「え?」

「あいつと何話したの?」

「別に。何も話してないけど」


あの人、コウのこと悪く言ってたよ。

なんて、言えるはずもない。


もしかしたら男同士の友情ってそんなものなのかもしれないし。



「まぁ、カイは冷たく見えるけど、悪いやつじゃねぇからさ。いや、でも、いいやつってわけでもないんだけど」

「どっちよ、それ」


呆れながらも、笑ってしまった。



「ねぇ、それよりさっきの電話、誰からだったの?」

「ん? あぁ、ユキチだよ。飲みに行こうってうるせぇの。あいつ今、スナックに狙ってる子がいるとかで、毎日誘いの電話してくるんだよ」

「ふうん」

「何? 心配?」

「さぁね」


はぐらかして、私は焼き鳥をつつく。

コウは「嫌な女だ」と言いながら、私がつついていた焼き鳥を奪い取った。



「でもさぁ、コウって友達多いよね。羨ましい」

「無駄に増えたって感じだけどな。人が人を呼ぶっつーか、だから実は俺、あんま把握してねぇもん」


焼き鳥を奪われた私は、仕方がないからコウのビールを勝手に飲んだ。

飲んだところで、もやもやとしたものが晴れるわけじゃないのだけれど。


特にどうでもいい会話をしながらも、やっぱり思い出すのは、てっちゃんのこと。



「あ、そうだ! カラオケ行こうよ、カラオケ!」

「何、急に」

「いいじゃん。何か今、無性に騒ぎたくなったの」


コウは「わけわかんねぇ」と漏らすが、私はさっさと席を立ってコウの腕を引いた。

夜は、余計なことばかり考えさせられるから、嫌い。

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