徒花
コウは片手で抵抗しようとする私の手の自由を奪い、もう片手で私の服をまさぐる。

何でいきなりこんなことになるのかわからない。


薄いドア一枚を隔てた向こうで、みんなの騒ぐ声が聞こえてくる。



「やっ」


だから、私は嫌だと首を振る。

刹那、コウは私の顔の真横にある壁をガッと殴りつけ、



「ムカつくんだよ! やっぱ許せねぇ! 他のやつに触らせてんじゃねぇよ!」


低く吐き捨て、また私の体をまさぐった。


恐怖と、困惑のまま、私は体を硬直させる。

抵抗をやめた私を、コウの触手が蹂躙(じゅうりん)する。



私は唇を噛み締め、声を殺した。



狭い密室で、コウは無理な体勢のまま、私を後ろからうがつ。

うがたれながら、私がいけないからコウはこんなことをするんだと思った。


私がコウを怒らせてしまったんだ、と。




犯すように欲望を吐き出したコウは、私を掴んでいた手の力を緩めた。




私はその場にずるずると崩れる。

コウはそんな私を見降ろして、「ごめん」とだけ言った。


悲しくて堪らなくなった。



私は乱れた衣服を整えるより早く、コウを突き飛ばし、逃げるようにトイレから出た。



「マリアちゃん?!」


ダボくんの、驚いて呼び止める声さえ振り切り、私はそのまま店を出る。

泣きながら走った。


それでも私はコウを嫌いにはなれなかった。

< 51 / 286 >

この作品をシェア

pagetop