ハッピー☆ウエディング


勝手に生まれてくる感情にあたしの心は支配されてしまいそうになる。



好きが溢れだして、あたしを呑み込んでしまいそう。



潤んだ瞳で慶介を見上げた。


息がかかりそうなくらい近くにある慶介の顔。

慶介はもう一度、キスを落とした。








そのキスを最後にあたしの首に回されていた慶介の腕がゆっくりと解かれていく。



まるで魔法が解けていくように・・・・。






「今度こそ、おやすみ」


悪戯っぽくそう笑うと慶介はあたしの顔を覗き込んだ。


「うん。おやすみ」


これ以上わがままを言ってはダメ。



あたしは自分に言い聞かせて車のドアを開けた。
ドアを開けた瞬間、肌を刺すような空気に包まれた。

吐く息も白い。





「さむ・・・」



あたしはマフラーを巻きなおしながら、運転席の慶介を振り返った。


「送ってくれてありがとう。気をつけて帰ってね」


「・・・・・・葵」





ドアを閉めようとしたあたしに慶介は何かを言いかけた。
黙って慶介の言葉を待つ。
でも、慶介は一瞬だけ目を泳がせた後「なんでもない」と笑った。


・・・・・慶介?







走り去る車のテールランプがゆらゆら揺れるのをぼんやり眺めながら、あたしは慶介のキスと最後の笑顔を思い返していた。





まるで、ビデオの巻き戻しをするみたいに・・・・


一分一秒、瞼の奥に焼き付けた。





その日からあたし達はまた会えない日が続いてた。

もしかしたら、帰り際に慶介が言いかけた言葉は“忙しくてなかなか会えなくなる”って言いたかったのかな?



あたしはあの時、一瞬何かを言いかけた慶介の顔が気になってた。




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