ハッピー☆ウエディング


あたしは、胸の中から込み上げてくる感情に負けないように雪絵さんの顔を見る。



「あたしね・・・」


雪絵さんは静かに口を開いた。



「あたし、今は吾妻さんの事が好きなの」


【吾妻】とは、さっき雪絵さんが一緒にいた人だ。
雪絵さんは、そう呼んでいた。


そういえば、ここには慶介の姿もない。


あたしがキョロキョロしていると、雪絵さんはその表情を和らげた。


「慶介君なら、今は部屋の外にいるわ。あたしが頼んで2人にしてもらってるの」


「そうなんですか・・・」


雪絵さんは、あたしに水を差し出す。
あたしはそれを、ペコリと頭を下げて受け取った。


「吾妻さんね・・・奥さんいるの。子供はいないみたいなんだけど、やっぱり好きになったほうが負けね。
彼は、あなたのお父さんの上司よ。
こんな関係になってる事・・・
慶介君にも言ってなかったから・・・さっきはすごい剣幕で怒られちゃった・・・」


「・・・慶介が?」


すごい剣幕・・・そんな慶介は想像できない。

あたしのその表情をみて、雪絵さんはふっと笑った。


「ふふ。そんな軽率な事はするなって・・・。
確かにそうよね。同僚もいるのに。現に、慶介君やあなたにバレちゃったんだもん」


「・・・・・」


そういって笑ってみせる雪絵さんの気持ちはあたしにはわからなかった。

奥さんがいるのに、雪絵さんと吾妻さんは温泉であんなコトしてた・・・
てことは、つまり不倫ってやつでしょ?
あたしには、大人の恋愛はわからない。


あたしは、なんと言っていいのかわからず、ただ黙って彼女の言葉を聞いていた。

その表情を読み取ろうとしても、雪絵さんは窓の外を眺めたままだった。


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