LOVERS♥HOLICK~年下ワンコと恋をして
「柊……」

目の前にちょっと不恰好にむけたりんご。

彗はピックに差して

口元に運んでくる。

一口シャクリと齧ると、

満足そうに笑いかける。

「おいしいでしょ?」

黙って頷く私に、

「ばあちゃんが、俺が泣いて帰ってくると、

 いっつもりんごむいてくれたんだ。

 いつもよりおいしくてホッとしたんだ。」

私がもう一口齧ると、

涙でぬれた頬にそっと唇が触れて来た。

フフッと笑うと。

「柊が、こんな風に泣くのって初めてだね。

 ごめん。

 僕ちょっと嬉しいかも。」


何も返事ができない私の背中を抱きながら、

寄りかかってくる彗の重みが、

一緒に温かさを連れてくる。

ふんわり頸筋に掛る柔らかい彗の髪が

私の心を包んでいく。

『今の私でいいんだよ、

 そのままでいいんだよ』って

そう言ってくれるみたいだった。

「……ありがと」

私が出せた言葉はその一言だけ。

恋人を犬扱いしちゃったらいけないと思いつつ、

天然セラピー犬な彗に感謝。

傍にいてくれるだけで、癒されるよ。





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