LOVERS♥HOLICK~年下ワンコと恋をして
「元気いいわね。

 あなたが新しいバイトの人ね?

 評判いいわよご苦労さま。」

そう声をかけられ、顔を上げると彼女が笑っていた。

「あ。は、はい。

 あ、あのっ」

突然だったので、言葉が出なくて

呼び止めようとした時には彼女は、

本社の偉い人達っぽい人と歓談しながら、

横を通り過ぎ、そのままバックヤードに言ってしまった。

しっかり目を合わせたのに、気がつきもしなかった。

いや、彼女はあの日のことを全く覚えていないんだ。


せっかくの再会はあまりにあっけなく、

交わした言葉の距離の遠さに

立場の違い、思いの違いを思い知る。


あの時、運命を感じた僕と、

すれ違っただけの人間として捉えていた彼女。

待ち望んでいたいた再会は、あっけなく僕の期待を叩き潰した。

失恋なんて生易しいものじゃない。

これじゃあ妄想だけにすがるストーカーじゃないか。


『あの?』

コーヒーを待つ客がじれったそうに声をかけた。

「あ、すみません。どうぞ。」

こわばった顔で無理やり笑顔を作り、

無心でコーヒーサービスに専念した。

何も考えずただただ、コーヒーを注いで手渡すことで、

かろうじてそこに立っていることができた。

なにやってんだ、

どうなってんだ、

自分らしくないのはもう百も承知、

もう何週間も僕はこの日ために過ごしてきた。

あっけなく過ぎたその再会は、

彼女の記憶の欠片にも触れることなく終わったのだ。

そしてさらに、残念なことを店長から告げられた。

「高木さん、今日を最後にエリア担当から外れるんですって。」

最悪だ。


それから半年バイトを続けたけど、彼女に会えたのは、

あの一回だけだった。


柊の知らない僕と彼女とのつながり。

僕の片思いの始まり。




< 27 / 272 >

この作品をシェア

pagetop