魅惑の果実
「何時から待っていた」

「今日は十時くらいから待ってた」

「今日は?」



あっ……ヤバ……。


口が滑った……。



「いつからだ」

「桐生さんと食事した次の日から……」



桐生さんは小さなため息を漏らすと、ソファーの袖に肘をつき頬杖をついた。


怒ってるっていうより、呆れてる?


もうヤダ……。


今の雰囲気辛い。



「食事した次の日から仕事で日本に居なかった。 今日帰ってきたところだ」

「え!? そう、だったんだ……」



なんだ……日本に居なかったんだ……。


仕事だったって聞いたからかな。


重い気持ちが少し軽くなった。



「何しに来た」



何しにって……。


桐生さんのちょっとした一言に簡単に傷ついてしまう。


嘘をついていた私に傷付く資格はないのに。



「話がしたくて……ただ、話がしたかったの……」



沈黙が流れる。


具体的に何の話をしようとか、したいとか、そういうのは浮かばなくて、自分でもどうするのがいいのかよく分からない。





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