魅惑の果実
これは一体どういう事?


呆気に取られていると、咲さんと目が合った。


ニコッと微笑む咲さんの顔は、今まで見た事がないくらい妖艶で女の顔だった。



「私の代わりに席についてくれてありがとう」

「いえ……」



私の代わり……その言葉に胸がズキっと痛んだ。


この言い方と雰囲気から察して、私邪魔って事だよね?


私、なに傷付いてんだろ……。



「桐生さん、ご馳走様でした」

「あぁ」



グラスを合わせる手が震える。


もう少しだけ、一緒に居たかったな……。



「おい」



部屋を出て行こうとしたら、桐生さんに呼び止められ振り返った。


次の言葉にドキドキする。



「名前は?」



え?



「私のですか?」

「お前以外いないだろう」



最初に名乗ったじゃん!!


べつにいいけど、いいけどムカつく。



「……莉乃です」

「お前は本当に素直だな」



ヤバッ。


尖らせていた唇を慌てて引っ込めた。



「失礼します」



部屋から出ると、ドッと身体から力が抜けた。


思わず本名言っちゃいそうだった。


桐生さんには知られてもいいかなって、何故だかそう思えた。


……咲さんとはどういう関係なんだろう。


親しそうだったけど、キャバ嬢とお客さんって関係だよね?


でももしかしたら……そう考えるだけで胸にチクチクと痛みが走った。





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