そして、故郷へ繋がる道を辿ると。
手紙

心霊学者

霊というものは、念でその形を保っているものだ。
人間が、食欲・睡眠欲・性欲の三大欲求を基礎とした欲で生きているように、霊は生前の人一倍強い想いで出来ている。我々生きている人間は、霊を見ることはおろか、感じることすら殆どの者が不可能だと肩をすぼめて言うだろう。だが、いないと言い張ることは出来てもいないことを証明することは出来ない。心霊現象を科学で説明できたとして、霊が必ず存在しないことを科学で説明することは出来ないだろう。私は常々思っている。火のないところに煙は立たぬというように、霊という強い念の産物は、この現世に存在するのだと。それを間接的に証明する事件は。

中途半端なところでふとキーボードを叩く手を止めた。潤田明弦・著と書かれた安っぽいハードカバーの、これまた安っぽい白い髪の老婆のおどろおどろしい写真が表紙になっている本を蹴飛ばし、明弦は屈伸をした。長い間ジッとしていたせいで、凝り固まった身体からポキポキと鳴る。流石にこれ以上パソコンの前で進みもしない文章を書いている気力はなく、明弦は少し気晴らしに外に出掛けに行くかと財布と携帯を尻のポケットに入れた。

見慣れた廊下。見慣れた玄関。見慣れたポスト。ダイレクトメールが度々詰め込まれる銀色の所々錆びたそれを習慣に則り横目で確認し、そして見慣れない光景を目の当たりにした。
真っ白の封筒に、我が家の住所が丁寧で神経質そうな文字で書かれている。俺の友達にはこんな細く丁寧な字を書く人はいなかったはずだ。そう思いながら明弦は手紙を手に、玄関へと逆戻りして腰を落ち着かせた。
それにしても何の手紙だろうか。友達ではない。親戚はここの住所すら知らないはずだ。昔の彼女、なんてあり得ない。首を傾げながら手紙を開いた明弦は、一枚の便箋にコショリと小さく書かれた住所を見て、数秒瞬きを忘れた。

「この郵便番号……確か……」

何日ぶりかに出した明弦の声は、掠れ揺れていた。

明弦が、こんなろくに稼げもしない仕事をしているのには当然だが理由がある。忘れようと頭の片隅に追いやった小さな曖昧な記憶だが、それは思い出す度に寒気と、そして鼻の奥を滲みを思い出させる程、明弦の心に染み着いているものだ。必死に事細かに間違いないように正確に掘り返そうとすると、微かに磯の香りが押し寄せ、そして波の音をかき消すほどのシャッターの音と人の話し声が頭をかき回し、そして正確な輪郭を掴むことを邪魔される。
それは、あまりに幼い頃の記憶だった。
長くこの道を歩きすぎて、夢中になっていたからか、故郷へ戻れなくなった。そんな感覚だ。

明弦は、手紙の住所を読み、そしてなかったことにしよう、見なかったことにしようと、その手紙を嫌な予感と寒気ごと、ゴミ箱に無理矢理に押し込んだ。
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