そして、故郷へ繋がる道を辿ると。
次の日、目を覚ますときにはすっかり太陽が昇りきり、明弦の頭に手紙のことは綺麗さっぱり消えていた。明弦はもとより引きずらない性格で、嫌なことを頭から追い出すことにかけては人一倍優れていた。

湿った布団から起きて、歯を磨き、顔を洗う。コオコオという高い音と水がはじける音が、突如シャットアウトされたかのように消えた。
明弦は「水道でも止められたのか」と思い反射的に水道の蛇口を見る。だが、そこにははっきりとシュアシュアと流れる水があり、触れれば確かな冷たさを感じた。
耳でもおかしくなっちまったのだろうか。そう思いヒヤリとしながら、水道をもう一度見る。確かに水は流れている。なのに音が無だ。いや、よくよく耳を澄ませれば、なんとなく遠くからそれらしき音が聞こえてきた。その時、耳が聞こえなくなってしまったのかということが頭によぎった数秒前のヒヤリとした感覚がよみがえった。胸がいっぱいで息は吸えない。肩甲骨の辺りをなにかが這い回りムズムズとする。気持ち悪い。身震いをしたいのに今一つ足りず、無理に身体の奥からそのムズムズとした感覚を押し出そうにも、何かが足りない。

耳の辺りで低くボコボコと響く何かの音が、やがて確かな音となった。


「うさぎおいし、かのやま」


ゴクリと唾を呑んだ。
耳に何かが触れた。

「明弦くん、かーえーろう!」
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