こんな能力(ちから)なんていらなかった



 気が付けば、人通りの激しい道へと出ていた。強く胸を手で抑えながら息を整える。


 落ち着いてきたところで頭を抱えてへたり込む。そんな優羽を通り過ぎる人間は一瞬視線を投げかけてそのまま歩いていく。


「……逃げちゃったよ」


 折角、過去の自分を知る人に出会えたというのに。

 長く息を吐き出す。

 もう二度とあんな好機は無いかもしれないのにそれを棒に振ってしまったのだ。落ち込むのも無理はない。


 しかし、どうしようもなかった。


あのままあの場にいたら、もしかしたら——


 優羽は目を丸くする。


「なんで私、泣きそうになってたの……?」


 自分の身体が信じられなくて優羽は自分の身体を掻き抱いた。


 流石に周囲がざわつき出す頃優羽は漸く立ち上がった。

 くよくよしても何も始まらない。

 また探せばいいだけの話だ。
 それに青年は良くも悪くも随分と綺麗な顔をしていた。それはもう俳優かと言いたくなるほど。

 今も思い出せば、心が騒ぎ出す。

 あれだけの美人ならきっと目立つ存在だろう。
 それを下に探せばいい話——


「——おい」

「〜〜〜〜っ!!?!」


 頬に手を当てていた優羽は突然かけられた声に飛び上がる。
 振り向いて、またも驚く。
 肩に手をかけたのはまさに今思い描いていた青年その人だった。


「……何故ここに!?」


 思いがけない状況に声が上ずる。
 そんな優羽に青年は微笑む。


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