こんな能力(ちから)なんていらなかった


 そして、吹き出したのは優羽以外にも沢山いた。

 色恋に疎い司が眼鏡を拭きながら話を掘り下げる。


『どんな男ですか?それは』

『なんで言わなきゃ……っ』


 聞きたくない、だが聞いてしまう。

 この場にいる奴らの大半がそうだろう。


『殿方に相応しいか見極めて差し上げます』

『殿方って……彼氏じゃないっ!』

『ほう?片思いとな?』

『……』


 優羽はニヤニヤする大天狗から顔を逸らした。

 その顔が真っ赤になっているのに気がついたのか、大天狗は優羽のことを膝の上に乗せた。


『鞍馬様、セクハラです』

『せくはら?なんだそれは——』


 大天狗は酒を煽る。

 その顔から上機嫌だということが窺えた。


『そうか〜、優羽も恋する歳になったのか……、時が流れるのは本当に早いものだ』

『何千年と生きてりゃそうでしょうねっ』


 嬉々とした表情の大天狗とは正反対に優羽は拗ねた表情を見せる。


『牛若もあっという間に大きくなってな……』


 また始まったと優羽は顔を顰めた。

 優羽はこっそり大天狗の膝の上から抜け出すと流の横に腰を下ろした。

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